会社から「出向」を命じられる可能性は常に存在しています。
「出向」は派遣や転職などと何が違うのかよく理解していない人は多いです。「出向」にはどのような意味があり、どんな目的で行われるのか解説します。「出向」について正しく理解してください。
「出向」の意味
会社員として働いている人にとって「出向」は他人事ではありません。いつ自分の身に起きてもおかしくないことなのです。そんな「出向」の意味を正しく理解していない人は多いです。「出向」の意味を説明します。
「出向」とは
「出向」の意味とは | 企業との雇用契約を維持したまま、別の会社に異動すること |
「出向」は突然命じられることがあります。企業からの業務命令として、社員が子会社やグループ会社へと異動させられるのです。したがって、別の会社で働くことになります。基本的には大きな企業で行われることが多いでしょう。
たとえば、都内で働いていた人が地方にある関連子会社への「出向」を命じられるというケースはよくあります。このようなケースでは左遷されたというイメージが強くなるでしょう。
銀行のように各地に支店があるような場合は、「出向」は頻繁に行われているものです。雇用関係は持続するため、退職しているわけではないです。退職とは違い復帰する可能性もあるのが「出向」です。
「出向」は断れるのか?
基本的に会社には人事権が認められており、正当な理由があるならば「出向」を命じることができ、それは断れないものです。「出向」は合法的な業務命令と考えられているからです。
ただし、「出向」の可能性があることが雇用契約書や就業規則に記載されていないならば、拒否できるケースがあります。また、目的が不正な「出向」も断れるでしょう。
「出向」によって労働条件が大幅に低下してしまう場合も、それは違法なものとみなされるため断れる可能性があります。上記の点について確認してみましょう。拒否できるケースがあるのです。
「出向」の目的
そもそも、「出向」はどのような目的で行われることなのでしょうか。「出向」にはさまざまな意味が存在しているのです。「出向」の目的について説明します。
キャリア形成
若い社員が「出向」を命じられることがあります。これは、その社員のキャリア形成としての意味合いが強くなります。たとえば、関連会社に「出向」すれば、その会社の仕事をよく知ることができ、それは将来とても役に立つ経験となります。
このような目的の「出向」の場合は、期間はそれほど長くなく、最終的には復帰できる可能性が高いでしょう。将来を期待している若い社員の成長を願って「出向」させるというケースがあるのです。
企業間交流を果たす
たとえば、新しい子会社できることがあります。その企業との交流を深めるために、社員を「出向」させるというケースがあるのです。その社員をきっかけとして、新しい取引先や子会社との関係を深めていきます。
実際に自社の社員が相手企業の中に入ることによって、さまざまな情報を得ることができて、お互いの意志疎通も円滑に行われるようになります。太いパイプをつくることを目的として「出向」させられるのです。
将来、今の会社を退職したあとに、かつて「出向」していた企業との関係から再就職を容易に行えるケースもあります。個人にとっても、「出向」はコネを作るという意味でメリットがあります。
雇用調整
雇用調整のために「出向」させられてしまうケースがあります。これは、現在の会社での雇用が難しくなってしまったためです。ネガティブな理由のようですが、首にされるよりも良い状況といえるでしょう。
整理解雇するようなケースも珍しくない昨今、雇用調整のために「出向」させられるのは誠意のある態度といえます。「出向」で給与や手当などが変わらないケースもあるため、それならばまったく問題はないでしょう。
「出向」の給与
「出向」した場合の給与について気になる人は多いのではないでしょうか。給与については、それぞれのケースにおいて違いがあります。「出向」の給与についての考え方について説明します。
どこが給与負担するのか確認しておく
基本的に「出向」する場合は出向先の企業が給与を負担することが多いです。これは税務上、給与は、どこに労働を提供して得たものなのかが問題となるからです。出向先でフルタイムで働くならば、出向先が給与負担するのが普通なのです。
ただし、出向元企業が給与を全額負担するというケースもあります。この場合はその給与分のお金は寄付金扱いされます。どちらが給与を負担するのかは、それぞれのケースにおいて異なるため、事前に確認しておきましょう。
また、役員になっている場合は、役員報酬というものがあります。出向先企業の役員になったならば、出向先企業から役員報酬を受け取れるでしょう。
給与面のメリットはあるのか?
「出向」による給与は出向先の企業に合わせるのが普通です。出向先の企業の給与水準にしたがうことになるため、給与が上がる場合もあれば、下がる場合もあります。
ただし、実際には企業同士の話し合いによって給与の取り扱いが決まります。そのため、現在と同じ給与水準で出向するというケースも少なくありません。
たとえ、出向先の企業が経営不振だったとしても、出向元の企業が現在の給与水準を保証してくれることがあるのです。「出向」したあとの給与の取り決めについて確認しておきましょう。
「出向」と長期出張・転職・派遣との違い
「出向」とよく似たものとして長期出張や転職、派遣といったものがあります。しかし、実際にはこれらはそれぞれ異なるものです。どういった違いが存在しているのか解説します。
出向と長期出張の違い
「出向」とは | 出向元との雇用契約を維持したまま、出向先の指揮監督の下に労務を提供する、出向先の会社に籍を移すケースもある |
「出張」とは | 普段の勤務地とは異なる場所に出向いて働くという概念 |
「出向」は別の会社の下で仕事をしたり、その会社に籍を移したりするというケースがあります。労働条件が変化することもあり、出向規定が設けられていて、それにしたがって労働条件について決められることが多いです。
一方、「出張」はそれほど厳密に定められたものではありません。職場を離れて別の場所で仕事をして、その期間が1日以上であれば「出張」と呼ばれます。その期間が長い場合は「長期出張」となります。
「出張」では、会社の籍が移ることはなく、労働条件も変わらないでしょう。一時的に会社を離れて仕事をしているだけであり、「出向」とはまったく異なるものなのです。
出向と転職の違い
「出向」と「転職」の違い | 「出向」は元の会社との関係性は維持されるが、「転職」は会社との縁が切れる |
「出向」は、あくまでも今の会社との雇用関係を維持した状態で別の会社に移って仕事をするというものです。出向先とも雇用関係を結ぶため、二重に雇用関係が存在している状態となります。
一方、「転職」とは今の会社を辞めて、履歴書を作り面接を受けて別の会社に移ることです。この場合、元の会社との関係は完全に切れます。退職する際には退職金を受け取ることができるでしょう。「転職」してしまえば、元の会社との関係はなくなります。
「出向」の場合は、元の職場に復帰するケースもたくさんあります。退職してしまえば、復帰することは難しいでしょう。退職は会社との雇用関係を解除することだからです。そのため、退職を伴う「転職」は慎重にならなければいけません。
出向と派遣の違い
「出向」と「派遣」の違い | 「出向」は出向先とも雇用関係を結ぶが、「派遣」はあくまでも派遣元との雇用関係のみ |
「派遣」は働く場所が派遣先ですが、雇用関係や雇用条件といったものはすべて派遣元にしたがいます。一方、「出向」では、出向先とも雇用関係を結び、場合によっては出向先の規則にしたがうこともあります。
「派遣」の場合は、派遣先の企業のルールは適用されないのです。派遣先企業が指示を出すこともできません。すべて派遣元の管理下で行われるのです。
「出向」の場合は、出向先の指示やルールにしたがいながら仕事をすることになります。「派遣」と「出向」は似ているようで違う点が多いのです。
「出向」から復帰することはあるのか
「出向」したあとに以前の職場に復帰することができるか気になる人は多いでしょう。「出向」の復帰について説明します。
「出向」は復帰することを前提としたもの
基本的に「出向」とは、将来復帰することを前提として含んでいるとされています。そのため、「出向」の期間が定められていることも多いです。この場合は期間を満了すれば以前の職場に戻ることになるでしょう。
「出向」の目的が明確に定められているならば、その目的を果たすと復帰できるのです。
期間や目的が曖昧な場合
「出向」する際に期間や目的が不明瞭な状態になっていることがあります。この場合は、復帰については面倒なことになるかもしれないです。基本的に、出向者が復帰を要求すれば、復帰することは可能です。
ただし、復帰する正当な理由がない場合には、「出向」が延長されたり、長期化したりすることがあります。スムーズに復帰できるかどうかは、ケースバイケースなのです。
「出向」の目的や期間はできるだけ明確にされていた方が良いでしょう。
出向について正しく理解しよう
いつ企業から「出向」を命じられるか分かりません。そのときに慌てないためにも、「出向」についてきちんと理解しておきましょう。「出向」は、雇用関係を維持しながら別の会社の管理下のもとに働くというものです。
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